子どもへの性加害が残す「時間差のトラウマ」──フラッシュバックはなぜ起きるのか

※本記事は子どもへの性被害やトラウマ反応(フラッシュバック)について触れるものです。読んでいてつらさが強まる場合は、無理をせず中断してください。心理的安全を最優先にしてください。

最近、ある大手出版社の漫画配信アプリをめぐる報道を見て、この記事を書こうと思いました。

社会的な議論が広がるなかで、強い怒りや不安、言葉にできないような悲しみ、
あるいは混乱を感じた方もいるかもしれません。私個人もその一人です。

今回綴らせていただくことは、出来事の是非を論じることが目的ではなく、
「(報道や記事の閲覧などをきっかけに)フラッシュバックが起きるのはなぜか」
という臨床的理解についてお伝えし、今つらい気持ちの中にある方に届けるためのものです。

フラッシュバックは意志の問題ではない

子ども期(幼少期)の性被害は、単なる“嫌な思い出”として保存されないことがあります。

発達途上の神経系では、強い恐怖や無力感のもとで体験が断片化し、
匂い・音・身体感覚・イメージといった形で保持される場合があります。

そのため後年、ニュースを見たり、似た言葉を聞いたり
権力差を感じる場面に遭遇するなどの刺激をきっかけに、突然強い情動や身体反応が立ち上がることがあります。

これは「過去を蒸し返している」というようなことではなく、
神経系が過去の危険を現在進行形のものとして誤認している状態です。

なぜ“今になって”つらくなるのか

トラウマやフラッシュバックは、下記のようなタイミングで症状が顕在化することがあります。

  • 安全なパートナー関係ができたとき
  • 妊娠・出産・子育て期
  • 生活が安定したとき
  • 安心できる相談先に出会ったとき

皮肉なことに、「安全になったとき」に反応が出ることがあるのです。

これは、抑え込む必要がなくなったサインである場合もあります。
悪化と断定せず、処理が始まった可能性として理解する視点が重要です。

「抵抗できなかった」という自責のこと

極度の恐怖下では、闘争や逃走だけでなく「凍りつき(フリーズ)」反応が起きます。
声が出ない、身体が動かない、頭が真っ白になる——というようなものです。

これは生理学的な防衛反応です。拒否できなかったことは同意を意味しません。

「拒否できなかったのは自分のせいでは」と考えてしまう方がいますが、
成人から未成年に対しておこなわれる性加害の責任は絶対に加害者にあります。

未成熟な存在に対する性的接触は、倫理的にも法的にも許されるものではありません。
自責の修正は、回復過程において重要な一歩です。

社会的議論が引き金になる理由

子ども期の虐待は、成人期のうつ、不安障害、PTSD、依存症、
自殺リスクの上昇と関連することが報告されています(World Health Organizationなどの報告による)。

社会的議論が過熱すると、当事者の神経系が刺激されやすくなります。
怒りや混乱が強まるのは、過去の無力感が再演されるからです。

ただし、議論に参加する前に、ご自身の安全を確保することが優先です。
刺激の強い情報から距離を取ることも、回復の一部です。

フラッシュバックへの初期対応

  • 足裏の接地感を確かめる(床を踏みしめるようなイメージです)。
    椅子に座るなどし、足がしっかりと地面についている感覚に集中する
  • 目に見えるもの5つ、触れられるもの4つ、聞こえる音3つ、
    匂いのするもの2つ、味わえるもの1つを探し、意識を現在に引き戻す
  • 視界に入る物を5つ、声に出して確認する
  • 呼気を長めにとり、ゆっくり深呼吸をする
  • 現在は○年○月○日、ここは○○(場所)、私は○歳、と順を追って確認する

グラウンディングとよばれるものをはじめ、
比較的どこにいてもできるようなものを紹介させていただきました。

フラッシュバックを起こしてしまうご本人はもちろん、
周囲の支援者やご家族の皆様にも、どれか一つでも覚えていていただければ
とっさの応急処置として使えるお守りになるかと思います。

症状が頻回・強度で日常生活に支障が出ている場合は、専門的支援をご検討ください。
トラウマ処理は段階的なアプローチが求められる専門領域です。
けして無理に抑え込もうとしたり、一人で抱えようとしないでください。

おわりに

子どもへの性加害は、時間が経てば自然に消える出来事ではありません。
しかし、神経系は可塑(かそ)的であり、柔軟に形を変えられることがわかっています。
安全だと感じる体験が繰り返されることで、反応が再調整されるのです。

もしこの記事がご自身の体験に触れ、つらい感情が出てきてしまったら、けして無理をしないでください。
いま起きている反応は説明できるらしい、という理解だけでも、孤立感がわずかに和らぐことがあります。

私からお伝えしたいことは、社会的な議論とは切りはなし、
あなたの安全と回復は守られるべきであるという考えです。

当ルームでは、過去の出来事を無理に語らせることはありません。
まずは神経系の安定化を優先しておこない、ほとんどの場合では下記のような順番で段階的に扱っていきます。

  1. フラッシュバックへの対処
  2. 解離への理解
  3. 自責思考の修正
  4. 安全感の再学習

必要に応じてサポートをご検討いただければ幸いです。

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