イライラ、ぐるぐる反芻思考への対策。“ボーッとする”ことの重要性—デフォルトモードネットワークについて

頭の中で同じことを一生考え続けている皆さん!
私もです。
相手の一言を思い返してイライラしたり、過去の失敗やこれからの心配がグルグル巡ったり
仕事、家事、育児、介護、勉強、人間関係などに追われていると
目の前の用事が終わっても頭だけが動き続けてしまうことがあります。
スマートフォンを眺めたり、次の用事に取りかかってみたりして
短い空白まで埋めてはいないでしょうか?
そんなときに必要なのは、問題をさらに考え抜くことではなく
あえて「ボーッとする時間をつくること」かもしれません🧠
休んでいるようでも脳は動いている
私たちが外部の課題に集中していないとき、活動が相対的に高まる複数の脳領域があります。
このまとまりは「デフォルトモードネットワーク(Default Mode Network:DMN)」と呼ばれます。
DMNは主にぼんやりしているときに働く“休息回路”の役割をもつほか、
過去の出来事を思い出す、自分について考える、他者の立場を想像する、将来を思い描くなど、内側から生まれる思考に関わる回路です。
手を止めている時間にも、たえず脳は記憶や経験を結びつけ、意味づけを行っているのです。
何もしていないのではなく、外の課題を処理するモードから、内側の情報を整理するモードへ切り替わっている、と考えるほうが近いといえます。
なぜ余裕がなくなるのか
私たちは日々、先を読み、問題を見つけ、次の行動を考えています。
こうした力は生活に欠かせませんが、問題を探して対処するモードが常にオンになっていると、
休憩時間にも「次に何をするか」「何か見落としていないか」を考え続けてしまうことになります。

さらに、スマートフォンで短い空白まで埋めると、注意は次々と外部刺激へ向けられます。
すると感情や出来事をいったん受け止めて整理する余白が減り、未処理の疲労や不満を抱えたまま次の用事へ進む…という流れに入ってしまいます。
イライラはその人の性格の問題とは限りません。
(イライラに繋がりやすい価値観や思考をしがちな人はいるとしても!それは前提として)
「これ以上処理を増やさないでほしい」という心身からのサインである場合もあります。
なお、DMNの働きだけでイライラを説明できるわけではありません。
睡眠不足、空腹、身体的不調、仕事量、人間関係、環境なども感情に大きく影響します。
DMNは、あくまで“空白の時間にも意味がある”ことを理解する一つの手がかりと考えて下さい。
シゴデキな皆さんにこそ必須
目の前の作業から離れたときに、急にアイデアが浮かんだ経験はないでしょうか。
創造的な思考には、DMNだけでなく、発想を評価・調整する実行制御系など
複数のネットワークの連携が関わると考えられています。
また、学習後に静かに休む時間が記憶の保持に役立つ可能性を示す研究もあります。
「ボーッとすれば必ずひらめく」「DMNを活性化すれば能力が高まる」とまでは言えません。
ただ、入力と出力を止める時間は、すでに得た情報を結び直す余地になります。
空白は無駄ではなく、考えを熟成させるためのスペースなのです。
今日からできる3分間の“何もしない”練習
- スマートフォンを伏せて通知から離れる
- 椅子に座る、ゆっくり歩いてみる
- 窓の外や遠くの景色をながめる
- 呼吸、足裏の感覚、周囲の音をぼんやり感じる
- 3分ボーッとした後の気分を一言で表してみる

ポイントは、“有意義に過ごそうとしないこと”です。
(なんらかの成果を求めた瞬間、それが新しいタスクになってしまいます!)
何かを改善しようとせず、短い空白をそのまま許してみてください。
取り入れやすいのは、仕事や家事が一区切りついたとき、
誰かに返信する前、外出先から帰宅したときなど、場面の切り替わりのタイミングが良さそうです。
イライラした直後には、返事や判断を急がず、まず刺激から離れる。
たった数分でも、反射的な言動を避けるための間になります。
「ボーッとする」と「考え込む」を間違えない
何もしない時間に、失敗や不安を繰り返し考えて苦しくなる人もいます。
これは休息というより「反芻(はんすう)」に近い状態です。
DMNは自己に関する思考と関わり、うつ病の反すうとの関連も研究されています。
そのため、ボーッとすることがすべての人にいつでも有効とは限りません。
考えが同じ場所をぐるぐる回り始めたら、無理にその場にとどまらず、
目に入る色を数える、足裏の感覚に注意を向ける、短く散歩するなど、意識を現在の感覚へ戻してみましょう。
つらさや不眠、怒り、落ち込みが続き、仕事や生活に支障が出ている場合は、
セルフケアだけで抱え込まず、医療機関や専門家への相談を検討してください。
統合失調症との関連
DMNは、統合失調症との関連も研究されています。
統合失調症は、幻覚や妄想、思考のまとまりにくさ、意欲や感情表現の低下、認知機能の困難などが現れ得る精神疾患です。
脳画像研究では、統合失調症のある人の集団と健康な人の集団を比べたとき、
DMN内部の機能的結合や、DMNと「重要な刺激を見分けるネットワーク」「課題へ注意を向けるネットワーク」との連携に違いが報告されているようです。
また、作業中にDMNの活動を十分に下げにくいことと、注意・ワーキングメモリーなどの認知機能との関連を示す研究もあります。
自分の内側で生じた考えと外部の出来事を区別したり、注意を適切に切り替えたりする仕組みとの関係から、症状を理解する手がかりの一つとして検討されているのです。
ただし統合失調症は、遺伝的要因や環境要因などが複雑につながっていると考えられており、
DMNの違いが原因と直接的に関連するということではありません。
幻聴、強い疑念、想像と現実との区別の難しさ、生活機能の低下などが続く場合は
自己判断で対処せず、早めに精神科などの医療機関へ相談してください。
こころの病気や発達特性との関連
DMNとの関連が研究されているのは、統合失調症だけではありません。
主な例として、次のような報告があります。
うつ病
DMN内部や他のネットワークとの結合の変化が報告され、
特に自分を責める考えや過去の失敗を繰り返す反芻との関連が検討されています。
ただし、結合が強まるという報告と弱まるという報告がそれぞれあり、
初発か再発か、服薬の有無なども結果に影響します。
双極症
気分が大きく変動する時期と安定している時期で
DMNの結合パターンが異なる可能性があります。
うつ状態と躁・軽躁状態を同じものとして扱えない点にも注意が必要です。
不安症・PTSD
自己に関する思考、脅威の監視、感情や記憶の処理に関わるネットワークの連携が研究されています。
DMNだけでなく、危険や重要性を検出する「サリエンスネットワーク」との関係が重視されます。
ADHD
課題に集中するときにDMNを抑え、注意を外部へ切り替える働きが安定しにくいという仮説があります。
DMNと注意・実行制御ネットワークの干渉が
不注意や集中の途切れとどう関係するかが研究されています。
強迫症など
自己に関する思考や持続的注意、思考の切り替えとの関係から、
DMNを含む複数ネットワークの変化が調べられています。

特定のDMNパターンが特定の病名と一対一で対応するわけではなく、
同じ診断名でも個人差が大きく、異なる疾患で似た所見が見つかることもあります。
研究の多くは集団平均の比較であり、一人の検査結果から病名を決めるためのものとしては必ずしも役立ちません。
現在の研究では、DMNだけを見るのではなく
注意、感情、記憶、重要性の判断などを担う複数のネットワークが
状況に応じてどう連携し、切り替わるかが重視されています。
精神疾患=DMNが活性化しすぎたせいで起こる、と単純化することはできないということです。
“ボーッとする時間”は日常的なセルフケアの選択肢であり、
精神疾患の予防法や治療法として期待できるものではありません。
すでに治療を受けている人は、主治医と相談しながらできる範囲で取り入れてみて下さいね。
やるべきことの放棄と捉えない
忙しい現代人やもともと責任感の強い人は、
「止まること」「休むこと」に罪悪感を持ちやすいものです。
しかし、人の注意力は無限ではありませんので、
空白をすべて情報や作業で埋めることは、短期的には効率的でも
長期的には判断力や感情の余裕を削る可能性があります。

イライラ・モヤモヤが増えてきたら、自分や誰かを責める前に
以下のようなことを自分に問いかけてみてください。
「最近、何もしない時間があっただろうか?」
「ヒマだなぁ、と感じられる日があったかな?」
ボーッとすることは、怠けることではありません。
次の行動・活動をよりよい状態で始めるために、
外へ向け続けていた注意をいったん手放す時間として必要なものなのです。
今日の予定に、まず3分の“余白”を入れてみませんか☕
